【MOVIE REVIEW】大ヒット『ボヘミアン・ラプソディ』に感じるちょっとしたモヤモヤの正体

ボヘミアン・ラプソディ

20世紀フォックス映画配給

TEXT by Keizo "Eddie" Takasaki, Chief editor / 高崎”エディ”計三編集長

 コラムの本格的スタートとなる今回は、大ヒット中の映画『ボヘミアン・ラプソディ』を見て、感じたことなど。「オイオイ、いきなりメタルじゃねえじゃねえか!」とお怒りの向きもあるかとは思いますが、ハードロックの曲も(中には)あるし、何よりあのメタル専門誌『BURRN!』の表紙にもなってたんで、たまにはいいじゃないですか。つーか、次回以降を読んでいただければ分かると思うんですが、こんなタイムリーで売れ筋なネタを扱うなんてマレ(なはず)なんですから。


 最初に言っときますが、今回、長文です。それもかなりの。実はこの感想、12月半ばにFacebook用に書きかけて、あまりの長さに中断してほっぽってたのを、今回、西村オーナーの「それ、いいじゃないですか!」のひと声で再開したものなんです。だから頑張って最後まで書きますが、まだ何文字ぐらいになるか、見当もついてません。まあ1万字はいかないと思いますけどね。


 なので、「そんなに長いの読んでられるか!」という方のために、まず結論を箇条書きにします。この文章で僕が言いたいのは、以下の3点です。


1 映画として面白いか面白くないかで言ったら、チョー面白い。まだ見たことなければ、見るべき! 特にライブシーンは最高!


2 実際の出来事を並べ替えたりしてるのは、ある程度はしゃーない。「ドキュメンタリー」ではなく「映画」だから。だけど、人の生き死にに関わる事柄をいじっちゃうのは、反則なのでは?


3 同じことを、自分が大好きなバンドでやられたら、やっぱりいい気はしないと思う。そう考えるとクイーン・ファンの人々の反応が気になる(いくつかの答えは本文中に)。


 何か、この箇条書きでもういいような気もしなくもないですが(笑)……というわけで、本文です。


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 『ボヘミアン・ラプソディ』を、今のところ2回見た。1回目は11月末に「IMAXや4DXでの上映は今日までだよー」という情報を見つけて、慌てて1人で見に行った。今確認してみたら、IMAXや4DXは全部終了というわけではなくて、「大幅減」的なことだったらしいが、腰を上げて見に行くきっかけになったのはよかった(ちなみに、最終的には11回見た『シン・ゴジラ』の時と同じパターン。迷った末に4DX〈場面に合わせて座席が動いたり水が出たりする〉で見たのも同じ)。


 2回目はツレと2人で見た。ツレとは予告の段階から「見たいね」という話をしていたので。それが12月上旬。年が明けても相変わらず好調な動員が続いているみたいだし、映画賞受賞でまた話題になっているので(ついに昨年の第1位になったとか!)、もしかしたら上映中にもう1回ぐらいは見に行くかもしれない。


 最初に確認しておくと、クイーンについて自分的には「まあけっこう好き」というレベル。これがどういうレベルかというと、


・ほぼ全部のアルバムがiPodに入っていて、たまに聞く。

・好きな曲は多い。

・初めてオンタイムで聞いたのは、曲で言えば『RADIO GAGA』。アルバムは『THE WORKS』。

・ライブを生で見たことはない。

・メンバーのパーソナリティーとかはだいたい知ってる。

・大まかな歴史は知ってるが、詳細に押さえているというほどではない。

・フレディの死後、クイーンがポール・ロジャースを迎えて作ったアルバムは図書館で借りて聞いて、「これはこれでまあいいんじゃん?」とか思ったりしている。アダム・ランバートとのヤツは聞いたことない。


 これは「好き」なことは間違いないと思うんだが、「ファンです!」と名乗るほどではないというレベルと、自分では認識している。それが他の人から見てどうかは難しいところだが。


 まあとりあえずそういうレベルで映画を見て、どうだったかというと……号泣(笑)。まあそりゃそうでしょ、あんなストーリーで、最後あんなクライマックスなんだもの。


 クイーンが結成から唯一無二のオリジナリティでスターダムに駆け上がっていく姿には感動する。『ボヘミアン・ラプソディ』とか『ウィ・ウィル・ロック・ユー』とか、よく知っている曲の誕生の過程が語られるのは楽しい。さまざまなことに翻弄されるフレディの人生には胸が痛くなる。そして、他のメンバーたちの再現っぷり!(ぶっちゃけ、「似てる度」だけで言ったらフレディが一番低い) 「ああ、こりゃ評判になりますわなあ」と思ったし、だからこそツレも誘った。


 また、この作品の一番のウリであるライブシーンの再現っぷりは、本当に圧巻のひと言。ちまたではラストの「ライブ・エイド」のステージばかりが話題になるが、上昇していく過程でのアメリカ・ツアーのシーンも、当時の空気を忠実に再現していて見逃せない。一説によれば、日本公演(大阪?)のシーンも撮影はしたが収録はされなかったのだとか。海外でもうすぐ発売されるブルーレイ/DVDには「ライブ・エイド」シーンの完全版が収録されることが話題になっているが(これはこれで見たい)、その日本公演もソフト化の際に見られるなら見たいものである。


 ただライブシーンがいいというだけではなくて、ストーリーの盛り上がりとライブがリンクしているから、余計に印象が強い。かつて『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』のラスト、あのライブのシーン(念のためネタバレ配慮)で、思わずホロッと来るアレと同じだ。もっとも、『アンヴィル!』はドキュメンタリー映画だったが。


 ただ、初見の際にはツイッターや何かで事前に少し情報も入っていて、「実際の時系列とちょっと違う」「そこに疑問の声もある」というのも目にしてはいた。だが、何しろ自分が上記のようなレベルだもんだから、見てても「ああ、そうなんだっけ?」と思う程度で、真っ最中に「これはおかしいだろ!」と興醒めになるほどではなかった。このあたりが「ファンと名乗るほどではない」という所以でもある。


 実際、「あれ? ROCK IN RIOってアイアン・メイデンも出てたヤツだよね? だとすると、エラく前倒しになってない?」など、ちょっと疑問だった個所もあるにはあったのである。なので1回目のあとに、「実際の歴史」を改めて(ちょろっと)調べてみた。すると、いろいろなことが分かって、いろんな反応をしている人の気持ちもだんだんと理解できてきた。


 確かにこの映画においては、メンバーや周辺の関係者に起きた出来事が、実際の時系列とは異なる順番に並べ替えられていたり、実際とは異なる経緯で描かれていたりする部分がある。特に大きいのは後半、バンドが成功する中でフレディが孤立した後に自らの病を知り、そしてメンバーに頭を下げて復帰、「ライブ・エイド」に出演するという流れの部分だ。細かい比較・説明は省くが、このあたりの時系列と事情は大胆に改変されていて、そしてその結果、感動的なストーリーの太い柱が出来上がっている。


 繰り返すが、これはドキュメンタリー映画ではない。だから「改変してはいけない!」ということではない。だが、「感動的なストーリーにするために事実とは異なる流れにした」点、そして何よりも「そこにフレディの、そしてバンドの生き死にが関わる部分をいじった」点については、どうも腑に落ちない。「分かっちゃいるけど、なーんとなくモヤモヤする」のだ。「それは反則なんじゃないの?」と。


 だって、後半の流れをあえて超簡単にまとめると、「不治の(と当時はされていた)病により死を悟った主人公が、距離を置いていた他のメンバーに頭を下げて、離散状態にあったバンドに復帰。世界的な大ステージで見事な復活を遂げる」となる。こうまとめてしまうと、あえて言えば「ほとんどウソに近くなってるじゃん?」と思ってしまうのである。


 この腑に落ちなさは、やっぱり「実在の人物とバンドを描いている」からなのだと思う。これが「誰が見ても『あーこれ、クイーンがモデルね』とは思うけど、劇中ではあくまでも架空のバンド」のストーリーだったらまだいいと思うんだが、まあそれではこんなにヒットすることはなかっただろうしなあ……とも思うし。そんな感じで気持ちがグルグルするから、モヤモヤしてしまうのである。


 同時に、自分としては「まあ好き」程度のクイーンだったからこのレベルだが、「すげえ好き」とか「崇拝」レベルのバンドで同じようなことをやられたら、もっと許せないのではないかという気もする。皆さんもちょっとだけ考えてみてください。自分がいっちばん好きなバンドを題材に、でも「うーん、ちょっと流れが違うなあ」という展開で、感動ストーリーが作られたとしたら。そしてTVのワイドショーなんかで「真実の物語」とかって紹介されたりしたら。


 まあそこまでギチギチに考える必要はないのかもしれない。ただ、「感動できたんだから改変のこととかを言うのは野暮」みたいな意見も散見されて、それはそれでちょっと違うんじゃないかとも思ったりするのである。自分レベルが言うのはアレかもだが、もっとずっと大ファンでいたような人たちなら、そこを指摘してもおかしくないし、言われても仕方ないことをやっちゃってるんじゃないかと。


 で、実際のところ、大ファンの人はどう思ってるんだろう?となって、いくつか聞いてみた。一番多かったのは、「確かに気になる部分はなくはないけど、今この時代に、クイーンの物語を甦らせてくれたのはうれしかった」というご感想。なるほど、それもよく分かります。さっきいろいろ書いたけど、好きなバンドでこういう映画が作られたら、間違いなく一番に見に行くもんなあ。


 面白かったのは、奥さんが超がつくほどのクイーン・ファンという、ある人の話。「ライブシーンよりも、もっといいエピソードがたくさんあるから、それをたくさん盛り込んでほしかった。だってライブは映像で本物を死ぬほど見てるし、これからも見られるから」と言っていた、ということだった。さすが超ファン!という感じのご意見で、これはこれで面白い。


 最後にもう一度念押ししておくが、単に映画としてストーリーを追う分にはすごく面白い作品だと思う。「まだ見てないんだけど、見たほうがいいと思う?」と聞かれたら、一も二もなく「見るべき!」とオススメする。マジで。と書いてたらまた見たくなってきたので、近日行くかなー。皆さんの感想も教えてください!

METAL JUSTICE MAGAZINE

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